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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

コトバ、ことば、言葉 (2004)



コトバ、ことば、言葉     (2003年8月作)

コトバ、ことば、言葉を辿る日の続く パソコン前の「翻訳事務所」

起き抜けにメールにざつと目を通し今日の仕事の手順を決める  

朝一番日本語メールの概要を契約先に英語で流す

業績が傾く時の通信文読み伝へつつ小声になりぬ

時に行く客先オフィス誰彼が家族の写真を机に飾る

ピーターのオフィスの壁に飾らるる"DADDY(ダディー)"と書かれしクレヨン童画

児の描く髭もじやもじやのピーターの横の四角はパソコンならむ

オンライン・ショップのサイトを翻訳す若者言葉を少し採り入れ

商品の説明次々和訳して表面だけの雑学増える

ITも辞書も仲間も総動員 コトバッ、ことば、言葉よ浮かべ

カーソルがチカチカチカと瞬きて次ぎの言葉の催促をする

作業中何故だかふつと生れたり妙に明るき短歌が一首

パソコンの隣に頭痛薬を置き あと一ページ、もう一ページ

コンピュータの打鍵の音が一つづつ頭に響く ああ、もうだめだ

ノートパソコン車に載せて家を出る会議議事録作成の夜は

英語での会議のテープ聞きながら日本語議事録パソコンに打つ

「ワタクシハキカイ」と自分に言ひ聞かせ端からカタカタ英文和訳

参会者がホテルの部屋に戻る頃ドアの下より議事録配る

夜更けて車まばらの大通り信号の赤しんと透明

夜の床にふと思ひつく「ああ、あそこ、こう訳したらよかつたのに」と

夏の午後ノートパソコン庭に出し木陰に開く臨時作業所

モニターに陽が反射して見え難(にく)く何度もいろいろ角度を直す

「第ニ条第三項…」と打鍵する我に涼しき白樺の風

行間が字間が訴へかけてくる「ここの気持をうまく訳して!」

空を見る雲を眺める草を抜く次の言葉の探せない時

会心の訳語が一つ浮かびたり シャワーの後のやうに爽快

バラバラのバベルの塔の断片でジグソー・パズルの翻訳作業

何日かぽつかり仕事の途切れしを待ちゐしごとき頭痛、肩こり

同業者は仲間で敵でビミョーなり 仕事を奪(と)りあふこともしばしば 
 
定年を自(みずか)ら決める自由業気楽なやうな厳しいやうな



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